無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
「俺の実の母親は、次男を産んでまもなく病気で亡くなった。その後、父と結婚したのが湊人の母親だ。
彼女は実の母親以上に俺たちを可愛がってくれた。それは湊人が生まれてからも変わらなかった。
俺も次男も、甘えん坊でいつもニコニコしている末の弟が可愛くて仕方なかった。湊人の取り合いだったよ。湊人も俺たちに懐いてくれていた。
だが、鷹屋家の後継者に俺が指名されたことで、穏やかな日々は一変した。
昔は俺の方が感情表現が苦手でね、誰からも愛される湊人とは正反対だった。そんなこともあってか、後継者は湊人だと囁かれていたんだ。
一番納得いかなかったのは母親だ。それからというもの、俺や次男を罵倒するようになった。その事実を父も湊人も知ることはなかった。表ではこれまで通りの穏やかで優しい母親を演じていたからね。
俺も次男も、これは何かの間違いだと、現実逃避していた部分もあったのかもしれない。だから二人だけの秘密だった。
だがある日、湊人が目撃してしまったんだ。鬼の形相で俺たちを罵る母親の姿を。
大好きだった優しい母の豹変した姿を目の当たりにして、それが、自分の所為だと悟った湊人は、中学一年で多感な時期も重なって、家族から距離を置くようになってしまった。口数も減り、笑わなくなった。心を閉ざしてしまったんだ。
自分はこの家にいてはいけない。そう信じて疑わなかった湊人は、すぐにでも鷹屋家を出ることを考えていた。大学受験はせずに、警察官になる道を選んだ。
警察学校に入学すれば、寮に入らなければならない。湊人にとっては、渡りに船だったんだろうな。不規則な仕事だ。今のように急遽呼び出されることもある。
様々な行事で顔を出さなければならない時でも、仕事なら仕方ないと、皆は納得せざるを得ない。
湊人が考えた誰も傷つかないお家騒動の解決方法だ。湊人自身が一番傷ついているのにな……」

潤人は寂しげな笑みを浮かべた。

「それがだ。今の湊人は憑き物が落ちたかのように穏やかな表情をするようになった。これを春音ちゃん効果と言わずしてなんと言う?」

「そ、そんな大袈裟ですよ」

春音は顔の前で精一杯手を振った。

「ペラペラと喋ってしまったが、君には知っておいて欲しかったんだ。湊人には余計なことしやがってって睨まれそうだけどな」

「お話しいただき、ありがとうございました。聞けて良かったです。今のお話は、私のここにしまっておきます」

春音は自分の胸に手をあてた。
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