無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
湊人のいない静かな部屋はとても寂しい。
回転椅子に腰掛け、フウーッと息を吐いた。

正直、話を聞いている間、ずっと胸が苦しかった。
湊人が抱えてきた苦しみは、それ以上に想像を絶するものだったに違いない。
きっと、誰にも頼らず独りで生きていくことを決めたから、家事も完璧だったのだ。そして、二度と傷つかないように、冷たい態度をとって予防線を張っていたのかもしれない。

" 暴君 "それは、自分の心を守る鎧だったのだろう。
もう、脱ぎ捨てて欲しい。

『せめて私の前では』

そう思うと、顔が見たい。触れたい。温もりを感じたい。湊人への想いが次から次へと溢れ出た。


一方の湊人も、早く帰りたくて仕方なかった。
潤人を前に、頬を染める春音の顔が心を抉る。
潤人は透子と結婚する。子どもも生まれる。それなのに、湊人は不安でいっぱいだった。

『クソッ! とっとと確保して帰ってやる!』

湊人の念が通じたのか、逃走中の被疑者が湊人の前に姿を現した。すぐにターンし逃走を試みるも、俊足の湊人から逃げ切ることはできなかった。

さっさと事後処理を済ませた湊人は、春音の待つ自宅マンションに向かって駆け出した。
東の空からは太陽が昇り始めている。春音はきっと眠っているだろう。その寝顔を早く見たい。
マンションに帰り着いた湊人は、そっと玄関の扉を開けた。
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