無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
男性は男の制止もきかず、無表情のまま近づいて来る。

「止まれっ! 止まれって言ってんだろっ! 女を殺すぞ! 俺は一人(やっ)てんだ! 冗談なんかじゃないからな!」
 
「これ以上は無理か……」

男性が呟いた。

「いいから早く止まれっ!」

男性はぴたりと立ち止まり、片方の口角を上げたかと思うと、

「おい、ブス、邪魔だ」

低く冷たさを含んだ声でそう言った。

『え? 今私に向かって言った? 邪魔? ブス? ブス……』

放たれた言葉が春音の脳内で繰り返されたその時、男性は春音の抱えていたフラワーアレンジを蹴り上げた。

『あっ!花が!』

大切に作り上げたアレンジメントが空中で弧を描く。

男性が男を押さえつけるのと同時に、花は地面に叩きつけられた。
目の前の惨状と、学生時代、根暗だのブスなど笑われていた過去を思い出した春音は、その場にへたり込んでしまった。

「銃刀法違反の現行犯で逮捕する」

男性は取り押さえた男の手に手錠をかけた。

春音の目の前には、無惨な姿になってしまったアレンジメントが転がっている。

『どうしよう、もう間に合わない……サプライズが……このままじゃ、店の信用も、ホテルの信用も失ってしまう。早く戻って作り直さなきゃ』

気持ちは焦っているのに、なかなか立ち上がることができない。
自覚はないが、心身共にかなりのダメージを負っていたようだ。
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