無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
騒然としている現場をよそに、潤人は春音を横抱きしたままホテルのエントランスを抜けた。

「副社長!」

コンシェルジュデスクから女性スタッフが駆け寄った。

「依頼していたフラワーアレンジだが、今作っている最中だ。お客様のチェックインには間に合わないかもしれない。私が直接お詫びする」

「そのことですが、事故渋滞に巻き込まれてしまい、チェックインが遅れると今し方お客様から連絡がありました。ディナーの予約時間の変更も承っております」

「そうか、わかった。だったら間に合うな。私は彼女をクリニックに連れて行く」

潤人の塞がった両手を一瞥した女性スタッフはすかさず言った。

「私もエレベーターまで参ります」

「緊急事態だ。表のエレベーターを使う」

「かしこまりました」

女性スタッフは潤人の後に続いた。
 
春音を抱えているため、エレベーターのボタンを押せない潤人に代わって、女性スタッフは5階ボタンを押すと、他に乗客がいないことを確認しエレベーターを降りた。
そして、閉まる扉の向こうで丁寧に一礼した。


エレベーターが5階で止まり、降りたところで潤人に抱えられたままの春音は言った。

「副社長、私は歩けますので降ろしてもらって大丈夫です」

「それは出来ないな。君のことを頼むと透子から言われているからね」

潤人は微笑むと春音を抱えたままクリニックへ急いだ。
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