無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
潤人の腕に抱かれ、息遣いを近くに感じる。
男に拘束されていた時とは違う緊張が春音を支配し、鼓動が大きく脈打った。

春音は、王子様のような潤人に密かな恋心を抱いていた。だが、潤人を "推し" に脳内変換し、リアルな恋愛感情を押し殺した。そうすることで気持ちを楽にしたのだ。

何故なら、潤人と透子は恋人同士。
ハイスペックで眉目秀麗の潤人と、才色兼備の透子。
性格も申し分ない二人は、大学3年生の頃から交際しており、そろそろ結婚するのではないかと囁かれている。

休日、二人のデート現場を目撃した同僚が、透子の左手薬指にダイヤの指輪が輝いていたのだと、目を輝かせながら話していたことが根拠となっている。
先日、33歳の誕生日を迎えた透子に、潤人がプロポーズしたのだろう。

お互いを尊重し、想い合い、信頼し合う。誰もが羨む理想のカップルだ。

そんな二人の間に入る隙など1ミリもない。いや、あったとしても入りたくない。春音にとって二人はとても大切な存在だからだ。

高校卒業後、就職した会社が倒産し、路頭に迷っていたところに「うちで働いてみない?」透子が声をかけてくれた。
二十歳の時だった。

あれから三年、春音は充実した毎日を送っている。
春音にとって透子は恩人であり、家族のような存在なのだ。

推しの潤人と、姉のような透子。
二人には幸せになってもらいたい。春音は心からそう思っている。

だから早く降ろして欲しい。決して表に出してはいけない恋愛感情が顔を出す前に……

自分の中で暴れる恋情と、春音は必死に戦っていた。
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