無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
「森川さん、私は他の患者さんの診察がありますので行きますね。何かあったら、枕元のナースコールを押してください。さあ、横になって」

「はい、ありがとうございました」

誰もいなくなった処置室のベッドに春音は横になった。
目を瞑ると、人質にされた出来事が鮮烈に蘇り、身体が震えた。
今更ながら、恐怖が全身を支配する。

『よくあんなに冷静でいられたな……』

震える身体に力を込め、犯人も捕まったし、もう大丈夫だと春音は自分に言い聞かせた。


それからまもなく、ドアがノックされ、

「春音ちゃん」

透子が心配げな面持ちで顔を覗かせた。

「店長、申し訳ありません」

大切なアレンジメントを守れなかったことがどうしても悔やまれて、自然に口にしていた。

「申し訳ないって、春音ちゃんがそんなこと思う必要ないでしょう」

「でも……」

「ホント、怪我だけですんで良かったわ。本当に良かった」

春音の手を握りしめた透子の大きな瞳には、溢れんばかりの涙が浮かんでいた。

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