雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜

 トートバッグと一緒に持っている紙袋に視線を向ける。そこに、昨日のうちに洗濯を済ませた黒カーディガンを入れていた。普段使いしている物だから早めに返した方がいいのではないかと思い、診療時間後に届けて問題ないかを確認していた。
 音岐動物病院は会社から駅までのルートにあるので、私はいつでも立ち寄る事ができる。病院に着くと裏口から、昨日と同じスタッフの小林さんが出迎えてくれた。

「藍沢さん、こんばんは〜。応接室にご案内しますね」
「小林さん、こんばんは。有り難うございます」

 応接室でソファーに腰を下ろして待っていると、しばらくして音岐さんがやって来た。こちらを見た音岐さんが、優しく目を細めて微笑む。

「元気そうで、安心しました」

 心配してくれていたのだと思うと、嬉しいような申し訳ないような気持ちになる。

「先日は、急に泣いてしまって……。ご心配をお掛けしました」
「今日は以前より、瞳が生き生きしているように見えますね」
「自分なりに頑張って、区切りをつけた事があります。…………音岐さんのお陰で」
「僕の?」

 彼が不思議そうに首を傾げる。

「音岐さんの前でたくさん泣いたので、色々と吹っ切れました」
「よかった。でも吹っ切れたのは、君が強い人だからだと思う」

 強い人。
 そう言われたのは初めてだった。

 嬉しくて、照れ臭くて。
 そして少し、誇らしい気持ちになる。

「有り難うございます。そうだといいな」

 音岐さんの言葉でまた一つ、私の心の中に勇気のカケラが増えた気がした。
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