雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
「カーディガン有り難うございました。それからこれ、宜しければ皆さんで」
私は洋菓子店に立ち寄り購入した焼き菓子の詰め合わせを差し出す。すると、それを見た音岐さんが「あ」と声を漏らした。
「実は僕もそれを……」
音岐さんも紙袋を出し、同じ包みの焼き菓子セットを置く。全く同じ物が二つ、テーブルの上に並んだ。顔を見合わせ、その偶然に笑ってしまう。ちょうどそのタイミングでお茶を運んできた小林さんも、それを見て豪快に笑いだした。
「小林さん、笑い過ぎだよ」
「ここの駅前は洋菓子の激戦区ですよ。お店が沢山あるのに、院長と藍沢さん随分気が合うんじゃないですか?」
そう言って笑う彼女の口から、今度は思いもよらない言葉が飛び出してきたのだ。
「そうだ、院長! ティアラちゃんの恩人である藍沢さんに恋人の振りをお願いすれば、お見合いを回避できるんじゃないですか」
恋人のふり? お見合い?
突然、飛び出したワードに理解が追いつかず私はオロオロする。
「小林さん、失礼だよ。僕の事情に彼女を巻き込むなんて」
「でも結婚を前提とした恋人がいるなら、叔母様も引き下がりますよね?」
「それはそうだけど」
「それに! お相手がティアラちゃんの命の恩人とあれば、絶対にケチをつけられませんよ!」
私は音岐さんと彼女の顔を交互に見つめて会話を追う。そんな私に、音岐さんが申し訳なさそうに事情を説明してくれた。
「ティアラの飼い主である僕の叔母が、助けて頂いたお礼に藍沢さんを食事に誘いたいと提案しているのですが……」
「私を食事に?」
「はい。そのお話とは別で、ここからは僕の事情になりますが。……その叔母から、お見合いを勧められていまして」