雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
第4話:彼の叔母様の正体と砂浜デート
土曜の休日。
音岐動物病院の午前診療が終わってから、病院の近くのカフェで、来週の食事会の際の打ち合わせをしていた。
私は、慣れない名前呼びに苦戦している。
「佑香」
「りょ、涼介さん」
ティアラを助けた私が涼介さんの恋人だという事だけは、先に伝えてあるらしい。その他の自己紹介は、来週に直接おこなう予定だった。
会話に矛盾が出ないように、私達は直近の経歴と趣味を書いた紙を交換して、それを頭に入れている。
「え? 佑香、ペットフレンズ・ワンの社員だったのか」
私の社名を見た涼介さんが、驚きの声を上げた。
「はい……。あの、何かありましたか?」
「葛城 凛子。それが、僕の叔母の名前だよ」
「葛城 凛子さん。葛城…………え? えぇ!」
少し考えてから、今度は私が大きな声を上げる。涼介さんの叔母様は、私が働く会社ペットフレンズ・ワンの副社長だったのだ。
葛城副社長は、ショートカットがよく似合う女性で、五十七歳には見えない若さと美貌を持った人だ。
「食事会の一日だけ恋人を演じてもらって、しばらくしてから別れたと言うつもりだったけど……。二人が同じ会社となると、凛子さんがちょくちょく君に僕の恋人として声を掛ける可能性があるね」
そんな事になったら、一人で上手く誤魔化せる自信がない。どうしようかと悩んでいると、私達の後ろから、誰かの声が涼介さんの名前を呼んだ。
「涼介!」