雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜

 振り返った私と涼介さんが、同時に驚きの声をあげる。

「凛子さん! どうして」
「か、葛城副社長!」

 その声の主は、私と涼介さんが直前まで話題にしていた人物だった。涼介さんに向けられていた副社長の視線が、ゆっくりと私に移る。

「あなたは……」
「き、企画部の、藍沢 佑香です」
「まさか。ティアラの恩人で涼介の恋人って言うのは……。うちの社員だったの?」

 副社長が、両手で私の手を握る。

「藍沢さん、ティアラのこと本当に有り難う。来週の日曜に最高のフレンチを予約しているから、お料理を楽しみにしていてね」
「は、はい。有り難うございます」

 突然の事態に私がオロオロしていると、フォローするように涼介さんが言葉を挟んでくれた。

「それより凛子さん。どうしてここのカフェに? 普段は来ないよね」

「うちの企画部から良い企画書が上がっていて、その件であなたにお願いしたい事があって病院に行ったのよ。そしたら、帰る寸前の小林さんがいて、あなたが今日は診療時間後すぐに、恋人と一緒にカフェに行ったって教えてくれたの」

 恋人の振り計画の発起人である小林さんの顔が浮かぶ。

「涼介にはもう、素敵な恋人がいるって……。仕事人間のあなたが、院の戸締りをスタッフに任せてすぐにデートに行くなんて驚いたわ。それで、その企画の話を口実に少しだけ様子を見に来たのよ」

 副社長が涼介さんの恋人の設定である私をじっくりと見つめる。途端に私は緊張で体が硬直した。

「凛子さん。僕にお願いしたい企画って?」

 涼介さんが、さりげなく副社長の視線を自分の方へと誘導してくれた。

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