雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
「うちの企画部の新商品の提案なんだけど……」
副社長の視線が私から涼介さんへと移り、私は小さく息を吐く。しかしそこで何か思い出したように言葉を止めて、副社長がまた私へと視線を戻した。
「あの企画書……。あなただったのね」
「え?」
「獣医師監修のペットフードの新商品よ」
それは、私が一ヶ月前に提出した企画書。
獣医師監修によるペットフード。ペットの為の療養食という新商品の提案だった。
療養食は通常フードに比べコストが上がってしまうけれど、今はペットの食事にも気を使う飼い主様が増えている。
何よりペットフードの売上は、他社を含め数字がずっと右肩上がりで伸びており、その需要の高さを考えると、しっかり採算のとれる商品になるのではないかと思っていた。
「この企画の件で、涼介に監修医をお願いしようと思って病院を尋ねたのよ。もしかして、これは恋人同士二人で考えたアイデアだったりするのかしら」
副社長が、私と涼介さんの顔を交互に見つめる。
「いや、僕は何も……。その企画は全て、佑香のアイデアだよ」
「そう。実際決定には至らなかったものも含め、いつも良い企画を上げてくるから、あなたの名前は頭に入っていたのよ。でも、各部の役職者としか私がミーティングする機会があまりないから、直接話した事はなかったわね」
副社長が私を見て微笑む。
「そう、あなたが涼介の……。姉さんに頼まれたお見合いは、お断りしておくわね。あまり長くお邪魔するのも悪いから、私はそろそろ失礼するわ。企画の件は改めて商談の時間をもうけるから。じゃあ、来週の食事会よろしくね」
私と涼介さんを順番に見つめてから、副社長は颯爽とカフェを後にした。