雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜

「ごめん。君をますます面倒な事に巻き込んでしまって……。でも、さっきの企画の話。あれは僕も素晴らしいと思うよ。日頃から食事に気を使うのは、ペットにとっても良い事だから」

 そう言って涼介さんが嬉しそうに微笑む。

「一緒にお仕事ができるかもしれないというのは、私も素直に嬉しいです」

 けれど、凛子副社長が私を恋人だときっちり認識してしまった。会社でも、涼介さんの事で話し掛けられる事が増えるに違いない。

「一日限りという約束を破ってしまうけど、このままもう少し長く恋人の振りをお願いしてもいいかな。今、本当の事を打ち明けるのも、すぐに別れたと話すのも、両方リスクがあると思う。もしも凛子さんの君への心象が悪くなったりしたら、せっかく評価されているのに大変だ」

 涼介さんが私に頭を下げる。

「ごめん。全部僕の判断ミスだよ。最初から君を、巻き込むべきじゃなかった」
「いえ、まさか同じ会社だとは考えていませんでしたし。やると言ったのは私ですので、涼介さんだけの責任じゃありません。だから……」

 頭を下げたままの涼介さんに向かって、私は言葉を続けた。

「だから……私達、共犯です!」

 咄嗟に出たその言葉に、涼介さんが驚いたように顔を上げる。

「共犯か……」

 思い詰めていた表情が解けて、涼介さんが小さく笑った。

「有り難う。それなら今から、二人でアリバイを作りに行こうか」

「え?」

 言葉の意味が分からず首を傾げた私の手を取り、涼介さんが立ち上がる。包み込むように握られた手の温かな感触に、途端に鼓動が早くなるのを感じた。

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