雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜

第5話:動き出した企画


 数日前に企画部の山内部長から、正式に私の企画の稟議(りんぎ)が通ったという話があった。
 そして本日。副社長、山内部長、私、そして涼介さんの四人で簡単な挨拶をする事になっている。

 涼介さんが来社する予定時刻に、総務の美沙が企画部の所まで来て部長に来客を告げた。

 あれから私は、美沙と一言も話をしていなかった。美沙は私と透さんが付き合っていると知りつつ、透と一夜を共にした。

 私との二股を容認するほど、彼女は透が好きだったのだろうか。美人で話し上手な美沙は男性人気も高かったので、ずっと恋人がいるのかと思っていた。

「山内部長。音岐動物病院の音岐先生が、一階の受付にいらっしゃいました」
「ありがとう。僕と藍沢さんが副社長をお呼びして応接に向かうから、芝野さんは五階の役員用特別応接まで音岐先生を案内して、それからお茶を四つお願いできるかな」

 部長が私の名前も一緒に出した瞬間、美沙が驚いたように私を見る。副社長案件に私が関わっている事が意外だったのか、途端に不服そうな声に変わった。

「あ、…………はい。特別応接までご案内して、お茶を四つですね」

 もしかすると美沙は、ショックを受けた私がすぐに会社を辞めるだろうと予想していたのかもしれない。
 あんな事があって、もちろん最初は辞める事も考えた。けれどそれを会社に言う前に、この企画の話を聞いてしまったのだ。

 頑張ると決めたからには、ちゃんと頑張らなきゃ。

 私は心で呟いて、山内部長の後に続いて歩き出した。


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