雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
凛子副社長と山内部長に続き応接室に入ると、涼介さんが立ち上がってこちらに挨拶する。
普段の白衣姿もよく似合っているけれど、ビジネススーツを着た彼も素敵だった。
「いや〜。それはすごい偶然ですね」
山内部長が私達に視線を向けて声を弾ませる。凛子副社長が、私がティアラちゃんを助けたという話をしたからだ。
私と涼介さんが恋人である。
その点を副社長が話さなかったのは、ビジネスの場に持ち出す話ではないと判断したからだろう。涼介さんと私は一瞬だけ視線を交わして、ホッと息を吐いた。
その時、ノック音がして美沙がお茶を持ち応接室に入って来る。
彼女は副社長と涼介さんがフランクに話をしている様子を、そっと観察しながらお茶を出していた。和やかな談笑が続き、涼介さんが私に話を振った瞬間、美沙が鋭い視線をこちらに向ける。
「藍沢さんの素晴らしい企画の監修ができて、こちらも嬉しいです」
嬉しい一言をもらえたのに、それでも私は、美沙が応接室を出るまで息が詰まるような思いがした。
その日の打合せは、動物の療法食について涼介さんから説明を受け、一時間弱で終了となった。
次回から開発部と一緒に、本格的に動きだしていく。五階のエレベーターホールで涼介さんをお見送りした後、副社長はすぐに別会議があるようで小走りで副社長室へ資料を取りに戻って行った。
分刻みのスケジュール。
お忙しいな。
「山内部長。私は茶器を洗ってからデスクに戻ります」
「有り難う。よろしくね」
特別応接に戻って茶器を回収していると、ローテーブルの隅に名刺ケースを見つけた。
「涼介さんのだ」