雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜

 まるで私を守るかのように、彼が私を背にして二人との間に割って入る。

「随分と、モラルに反する言葉を使うんだな」

 透さんは一瞬誰か分からない様子だったけれど、美沙が「音岐先生!」と声を弾ませたので、今回の企画の監修獣医であると悟ったようだ。

「あ、先生。いえ、これはたまたま……」

 焦る透に代わってこの場を繕うように、美沙が涼介さんに名刺ケースを差し出した。

「音岐先生、忘れ物です」
「これに気付いて戻って来たところでした」
「私。先程、先生を応接室までご案内した総務の芝野です。覚えてらっしゃいますか?」

 美沙が美しい笑顔で涼介さんを見つめる。

「そうでしたか、記憶に残っておらず申し訳ありません」

 記憶にないと言われるとは思っていなかったのか、美沙の表情から一気に笑顔が消えた。

「藍沢さん。企画の事で確認点を思い出したので、少しだけお話しても宜しいですか?」
「は、はい……。あちらのブースで、構いませんか?」
「有り難うございます」

 あの二人から遠ざかる事が出来てホッと息を吐いた。これから顔を合わす度に、こんな思いをするのかと思うと苦しくなる。

 やっぱり、もう辞めるしかないのかな。

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