雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
動物が好きな私は、この会社に入れた事がとても嬉しかったのだ。だから、できればこのまま頑張りたいと思っている。それでも……やはり辛かった。
「大丈夫だった?」
問い掛けられて、私はハッとして顔を上げた。涼介さんが心配そうにこちらを見ている。あんな場面を見せてしまい、気を使わせてしまったに違いない。
「あの……」
ごめんなさい。そう謝ろうとした私の声より先に、涼介さんが謝罪の言葉を口にした。
「ごめん。さっきの二人に雑な態度をとってしまったから、君の立場を悪くしたかもしれない。不容易に割って入って、逆に迷惑だったかな」
「いえ、そんなことありません!」
涼介さんの姿を見た時、たまらないほど安心した。だけどこれ以上、心配をかける訳にはいかない。
「私は大丈夫です」
彼を真っ直ぐ見つめて笑う。
「そ、そうだ……。私達、ようやく名前で呼ぶ事に慣れたのに、お仕事では苗字だから、色々とややこしいですね! 間違えないように気をつけなきゃ」
私は必死になって言葉を探す。
何かを言おうとした涼介さんの言葉を遮るように、彼の携帯電話が震えて着信を告げた。
「ごめん。怪我をした猫が来院して……」
「行って下さい!」
駆け出していく涼介さんを見送って、私はギュッと手のひらを握り締める。
もっとたくさん強くならなきゃ。
せめてこの企画の試作が終わるまでは、この会社で頑張っていたい。
けれど……。
私を辞めさせたい美沙から、私はまたあからさまな嫌がらせで追い詰められる事になるのだった。