雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
第6話:独占欲の答え【side:涼介】
<side:涼介>
無理をして笑っている。
佑香の様子を見てすぐに分かった。
そんな彼女に何も言えないまま、病院へと走る。その途中で、不意に頭に浮かんだ言葉があった。
『別れよう。動物と私、どっちが大事なの?』
それは、別れた元恋人の言葉だ。
音岐動物病院の開業に至るまで、僕は雇われ獣医として経験を積み、開業資金を貯める為に相当なハードワークをしていた。
あえて夜間診療も行う動物病院を選び、可能な限り出勤してシフトを埋める。そんな日々を過ごしていたのだ。
医者の家系だった音岐家はみんな医師になり、総合病院で代々院長の座を受け継いでいる。
父の反対を押し切って僕は獣医となった。獣医として自分の院を持つこと。それが、子供の頃からの夢だったのだ。
限界のようなハードワークも、その為なら頑張れた。しかし、当然付き合っていた恋人とは会う時間がとれず、相手の話をしっかり聞けない日々が続いた。
別れを切り出したのは彼女で、その言葉を言わせてしまったのは僕だ。
そして音岐動物病院を立ち上げてから、僕は益々仕事に傾倒する。
すぐに予約が取りにくい程の評判になって、多くの飼い主様からの要望もあり、僕は分院をスタートさせた。
そこに新たな獣医を迎え、落ち着くまでは二拠点を行ったり来たりする、相変わらず慌ただしい日々が続いている。
基本、音岐動物病院は夜間などの時間外診療は行っていない。
それでも、大きな手術後や重篤な子を預かった時は、僕が夜間の泊まり込み対応をしていた。
そして今日のような、普段かかりつけ医としてここに何度か来たことのある人からの、大きな怪我の救急対応には可能な限り応えたいと考えている。
『動物と私、どっちが大事なの?』
その言葉で終わる恋が、ニ度も続いた。