雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜

 美沙はいつも話題の中心にいるような話し上手なタイプで、私は消極的な所があるせいか、同期と言ってもそれほど親しい関係ではなかった。
 部署も私が企画部、美沙は総務部と分かれていたので、新人研修以降はほとんど交流がなく、久し振りの会話でこんな事を言われ頭の中が真っ白になる。

「私とは話もすごく楽しいって、昨日一緒に飲みに行って……その後は朝まで一緒だったの。そんな事があって、佑香に黙っているのは心苦しくって! 佑香の顔を見たら思わず言っちゃったの。ごめんね」

 そう言って美沙が含み笑いをする。
 私はその場で泣き崩れてしまいそうだった。

 透さんはその日、取引先との懇親会があり、午後の外出からノーリターンでそちらへ向かった為、話をする事が出来ていない。私は呆然とした状態でなんとかその日の仕事を終えて会社を出た。

 大通りで泣き出してしまわないように、隠れるようにそっとこの脇道にそれる。握り締めた傘から雨粒が滴り落ちるのと同じ速度で、瞳の中いっぱいに溜まっていた涙が地面にこぼれ落ちていく。

『それって、ただの都合のいい女よね?』

 ひどいよ。

『サンキュー。いつも助かってるよ』

 彼のその言葉は、上部だけの優しさだったのだろうか。憧れを持っていた人に告白されて、舞い上がって、喜んでもらえる事が嬉しくて仕事の手伝いをしていた。

 私、なにやってたんだろう……。

「バカみたい」

 その時。
 雨音に紛れ、微かに猫の鳴き声が聞こえたのだ。


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