雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
──だって、私より下だと思ってる人が、私より良い物を持ってたらムカつくでしょ?
「平然とした顔で、美沙がそう言ったって」
「ひどい、そんな理由なんて……」
好きになってしまったと言うのなら、納得はできずともまだ理解はできる。けれど美沙の言葉は、自分の承認欲求を満たす為だけに相手を傷付け、そしてそれを楽しんでいるかのようだった。
「でも美沙って表面上は話し上手な美人だから、色んな部署に美沙に憧れてる人もいるでしょ。上司ウケも抜群だし。だから山下さんは、誰にも言えず辞めたって言ってたよ」
誰にも言い出せなかった彼女の気持ちが、痛いほどよく分かる。
私と華奈は、同期で研修期間から長く一緒に過ごし、美沙の裏表に気付いていた。けれど大多数の人達は、全く気付いていないだろう。
「吉村さんって、佑香と付き合い出してから第一営業部のトップになったでしょ。それを知って、今度は吉村さんに美沙は狙いを変えたんだと思う」
私が透さんも最低の人だった話をすると、華奈は思い切り顔を顰めた。
「やだ怖すぎる……。吉村さんって爽やかキャラで通してるのに佑香を利用してたなんて。でもそれが本性なら、早めに別れて良かったよね」
華奈の言葉に私は強く頷いた。
「透さんは二股がバレても、私が別れたく無いって縋ってくると思ってたみたい。でもきっちり別れを切り出したから、そこから態度が変わって、顔を合わす度に嫌味を言われるようになったの」
恐らく美沙と透さんは今、自分たちの社内での体裁を守る為に、私を辞めさせたくて必死になっているのではないかと思った。
「本当は怖くて辞めようと思ってたの。でも、新企画の話が進んで」
「フードの新商品だよね。副社長もメインで動いてるんでしょ? あれ凄いよね」
「有り難う。でも美沙と透は、すぐに辞めるだろうと思っていた私が副社長と関わるようになったから……」
「自分達の事を言われるんじゃないかって、相当焦ってると思うよ」
華奈の予想に不安を覚える。
──だって、私より下だと思ってる人が、私より良い物を持ってたらムカつくでしょ?
美沙の存在に、不安が募るばかりだった。