雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
第8話:愛しくて切ない時間
三人での食事会当日。
普段はあまり訪れる事のないハイエンドなホテルのロビーで、私は涼介さんと一緒に凛子副社長が来るのを待っていた。
今日は自分が持っている服の中で、一番上品な淡いピンクのワンピースを選んだ。そして、いつもは下ろしているセミロングの髪をアップにまとめている。
隣のソファーに座っている涼介さんは、今日はジャケットを羽織っていて、グレーに少しの青を加えたような色味がとても良く似合っている。格好いいなと思い見つめていると、涼介さんがこちらを向いた。
「今日はいつもと雰囲気が違うね」
「え? きっと、髪をアップにしたので……。それでだと思います」
「そっか。すごく可愛いよ」
ストレートな言葉で褒められて、私は照れて視線を逸らした。たった一言が、魔法のように私の心を嬉しくさせる。
この前電話をした時も涼介さんは、ワン切りしてしまった私の言い訳を聞いて……。『あんまり可愛かったから』と笑った。
いつも驚くほどスマートに、彼はその言葉をくれる。私はつい、自分がまるで涼介さんにとっての特別になれたような勘違いをしてしまいそうになる。
涼介さんはきっと、今は恋人を作る気も結婚する気もないのだろう。だから、勧められるお見合いを回避したいのかなと想像していた。
「凛子さんからだ」
スマホを見た涼介さんが呟き、電話に出る。
「凛子さん、どうしたの……。え? うん、分かった。大丈夫だよ。それは気にしないで。うん、佑香にも伝えておくから、うん、それじゃ」
電話を終えた涼介さんを見つめる。
「副社長、どうかされたんですか?」