雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜

「きれい。それに、個室なんですね」
「周りを気にしなくても大丈夫だったでしょ?」
「はい。涼介さんはここによく来るんですか?」
「ここは凛子さんのお気に入りで、僕は二度ほど」

 そんな風に話をしていると、少し緊張がとれてホッとした。
 美味しそうな料理が順番に運ばれてきてからは、自然と言葉も弾んでいく。

「ペットフレンズ・ワンという社名の由来、佑香は聞いた事ある?」

 涼介さんに問われて私は首を横に振る。
 会社の創業は、社長と副社長と専務の友人三人により立ち上げられた小さな個人メーカーで、そこから飛躍的に業績を伸ばし、今の規模に急成長を遂げたという事は知っている。
 それでも、社名の由来は聞いた事がなかった。

「元々はペットフレンズという社名にするつもりだったらしいよ。でも、既に商標を取られていたらしく、ワンコ派の社長が名前の後ろに『ワン』って付け足したんだって」
「え? 知らなかったです!」
「でも、ニャンコ派の凛子さんはそれが納得いかなかったようで」

 話の内容も興味深いけれど、涼介さんの口から『ワンコ』や『ニャンコ』という単語が出てくるのがとても可愛い。

「最終的にジャンケンで決めたって凛子さんが言ってたよ」
「それって、もし凛子副社長が勝っていたら……」
「ペットフレンズ・ニャンだったかもしれないね」

 ワンに比べて、ニャンはあまりにも鳴き声だと分かりすぎるような気がする。
 私はワンを犬の鳴き声だとは思わず、ずっと数字の一を想像していた。もしも社長がヒヨコ好きだったら、ペットフレンズ・ピヨになっていたのだろうか。

「ちなみに専務の趣味は……?」
「あ、乗馬です!」

 専務がジャンケンに勝っていたら、ペットフレンズ・ヒヒーンだった可能性もある。
 外線電話をかける度に、「ペットフレンズ・ヒヒーンの藍沢と申します」と言って電話をする自分を想像して、声を出して笑ってしまった。

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