雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
「ヒヒーンだったら、急成長は遂げてないかもしれないね。真面目に仕事をしていても、ふざけてるような気がするし」
「ふふっ。名前って大事ですね!」
涼介さんと二人で、顔を見合わせて笑う。
そんな時間が幸せで、コース料理の終わりが近づき最後のコーヒーを頂く頃には、二人の時間が終わってしまう事が寂しくてたまらなかった。
ずっと、側にいたいな。
そんな思いが胸をつく。
けれど、お見合いを回避するという当初の目的が達成された今、あとは三人での食事会が終われば、そこから時期を見て別れを切り出し私達の嘘は終わりを告げる。
それが、この恋の結末だと知っているのに……。
涼介さんの側にいたいと、願ってしまう自分がいた。
午前零時の鐘と同時に効力を失うシンデレラの魔法のように、私に掛かったニセモノの婚約者という魔法はもうすぐ消える。
シンデレラの恋は魔法が消えても続いたけれど、私にその続きは訪れそうもない。
私の気持ちだけがまた一歩、本物の恋へと近付いていく。これ以上、好きになってはいけない。早く引き返さなければと思っているのに。
あなたが好きです。
止められない想いを自覚して、どうしようもなく胸が苦しかった。