雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
「あの獣医も態度でかいよな。医者じゃなくて獣医のくせに」
「確かに。私のこと記憶にないだなんて言って、私も音岐先生にはガッカリしたのよね。獣医って、医師になり損ねた人が仕方なくなるんじゃない?」
二人がまた声を出して笑う。
自分の事だけならまだしも、涼介さんの事や、獣医という職業を侮辱するような発言を始めた二人に、私の中の怒りが一気に溢れた。
「医師になり損ねた? 何言ってるの? 勿論、人命を救う医師は尊い職業だよ。でもそれと同じで、獣医は動物の命を救う仕事だよ。あなた達は何の為にペットに携わるこの会社に入ったの? どうしてペットに関する商品を扱う会社の人間が、動物の命を救う職業を軽んじたりできるのよっ!」
思わず、立ち上がって大きな声を出していた。エントランスにいる人の注目を集める程の大きさで、二人が焦って私を無理やり座らせようとする。透さんの手が私の手首を掴んだ。
「いきなり叫ぶなよ、周りに変な目で見られるだろ」
「そうよ、ここでそんな声出さないで」
肩を掴まれ無理やり座らされて、抑え付けられたままのそこに痛みが走る。
その瞬間。後ろから伸びてきた逞しい誰かの腕が、私の肩を掴む透さんの手を思い切り払いのけた。
「離せ。何をやっているんだ!」
振り返った私の目に、涼介さんの姿が映る。
こんな涼介さんの声を聞いたのは初めてだった。
「何を、しているのかと、聞いているんだ」
言葉も、口調も、丁寧であるのに、どうしようもない程の怒りに震えている。
それが伝わる声だった。