雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
「みゃー」
涙で滲んだ視界のまま、声のした方向を見る。
すぐ先にある重ねた廃材の隙間から、雨でずぶ濡れになった子猫が顔を出しているのが見えた。
淡いグレーの毛並みのロシアンブルーの子猫で、柔らかな毛は水を吸って体に張り付き、冷え切っているせいかずっと小刻みに震えている。
雨に打たれて必死に鳴いているその姿が、ここで惨めに泣く今の自分と重なり居ても立ってもいられなくなった。
私はそっと子猫に近づき、驚かさないようにしゃがみ込んで低い体勢になる。
よく見ると、猫の首には綺麗な赤い首輪が付いていた。
飼い猫だ。
逃げ出してしまったのかもしれない。
普段、外を知らない家猫。恐怖でパニックになっている可能性が高い。
上から大きく猫の視界を覆い隠す傘は、子猫を怖がらせてしまう。私は傘を地面に置いて、鞄からハンドタオルを取り出し距離をつめた。
「大丈夫、怖くないからね。あなたを、助けたいの」
左手を差し出し、手の甲をゆっくりと子猫に近づけると、恐る恐る私の手に鼻先を寄せて匂いを確かめている。
「怖くないよ」
逃げ出す様子はない。
私は急いで持っていたハンドタオルを子猫に被せ、首元を掴んでそっと抱き上げた。
「みゃー、みゃ……みゃー」
「大丈夫、大丈夫だからね」
しばらくして、抱える私の体温が伝わり温かくなったからか、子猫が大人しくなる。そのままタオル越しに耳元を撫でていると、安心したように瞳を閉じた。
「ティアラ、ティアラ!」
その時、男性の声が路地の手前で響き、私は立ち上がって振り返った。
白衣を羽織った背の高い男性が、この子猫を探しているのか、傘も持たずに息を切らして走って来る。