雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
第10話:本物の愛
その日の会社終わりに、私は音岐動物病院に向かった。涼介さんと、二人で話がしたかったからだ。
あの騒動の後。三十分後に打合せが行われ、予定していた内容が無事に終了した。美沙と透さんに関しては、それぞれの所属長と人事部、そして凛子副社長で話をする事になっている。
病院に着くと、スタッフの小林さんが「藍沢さん、いらっしゃい〜」と素敵な笑顔で迎えてくれた。
いつものように応接室でソファーに腰を下ろし、涼介さんを待っていると、エントランスでの出来事が頭を巡る。
新商品の監修をする事になり、あんな言葉を聞く羽目になって、獣医という仕事を誰よりも大切に思っている涼介さんは、どんな思いをしたのだろう。
監修医など引き受けなければ、私と関わらなければよかったとそう思われても仕方ない。そんな考えが生まれて、どうしようもなく怖かった。
私の中ではもう、止められないほど涼介さんへの思いが溢れているのに……。
そんな風に思った途端、膝の上で握り締めていた手の甲に涙がこぼれ落ちた。
どうしよう。
私の心の中にある涼介さんへの想いは、全て本物の愛になってしまった。
『嘘の恋の共犯者』
それが、私達を繋ぐ関係性だというのに。