雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜

「佑香。待たせてごめ……」

 応接に入って来た涼介さんが、私の涙を見て駆け寄ってくる。

「また会社で何かあったのか?」

 優しい手が私の頬を包み込んで涙を拭う。

「私のせいで、涼介さんに嫌な思いをさせてしまって……。だからあなたに……嫌われてしまったらと思うと怖くて。私は涼介さんの事で、もう胸の中がいっぱいなのに」

 私の言葉に驚いたように息を飲んだ涼介さんに、体を引き寄せられた。逞しい腕で、包み込むように抱き締められる。

「嫌いになる訳ないよ。嫌いになんか、なれないんだ。僕はもう……」


 ──君を好きでたまらないから。


 耳元で囁かれた言葉に、心臓が跳ねた。

「君を、誰にも渡したくないと思った。あの男にまで嫉妬した。何度も、何度も、僕らは恋人の振りをしているだけだと自分に言い聞かせながら……。それでも僕は、初めて会った雨の夜から君が好きだよ」

 涼介さんの言葉に、驚きと同時に、今度は幸せの涙が溢れてくる。

「佑香」

 名前を呼ばれて、涼介さんの胸から顔を上げた。
 温かい指先が、愛しくてたまらない物に触れるかのようにそっと私の下唇をなぞる。

 そのまま顎を持ち上げられて瞳を閉じると、熱い吐息と一緒に唇が重なった。角度を変えて何度も、衝動を抑えきれないような激しいキスが降る。

 思わずその胸をそっと押し返すと、「ごめん、こんな場所で」と小さく呟いた涼介さんが私を腕の中から解放した。


「今夜、君を連れ帰っていいよね?」


 その問いに頬がカッと熱くなる。
 私がもう、うなずく事しかできないと知っているのに……。
 そんな事を聞いてくる涼介さんの、ほんの少しだけイジワルなところを知った気がした。

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