雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
二人で食事をした後、涼介さんの車で彼の自宅マンションへとやって来た。白で統一された清潔感のあるエントランスを抜けてエレベーターに乗る。涼介さんが、最上階のボタンを押した。
「どうぞ、散らかってるけど」
「お邪魔します」
部屋の中は落ち着いた淡いグレーの壁紙で、黒を基調とした家具が揃えられている。華美ではなく、あくまでシンプルな空間が、より洗練された場の雰囲気を醸し出していた。
勧められたソファーに腰掛けながら、私は気掛かりだった事を尋ねる。
「涼介さん。私のせいで、凛子副社長と涼介さんの関係性を悪くしてしまいましたよね?」
「大丈夫だよ。あの場は、僕は音岐動物病院の院長として、凛子さんはペットフレンズ・ワンの副社長として向き合っていたから。叔母と甥の関係性に問題はないよ。それに元々、佑香のせいじゃない。僕はあの時の、君の言葉が嬉しかったよ」
そう言って、涼介さんが私の髪を撫でた。
何も気にする事はないと言うように、私の目を見て微笑む。
「そう言えば、佑香は猫を飼ってるんだっけ?」
「はい。涼介さんと知り合う前に、動物病院の分院の方でお世話になった事があって、あちらの先生もすごく優しい男性ですね」
「そうだね。でも、次は何かあったら僕の所においで。僕が診る」
早口でそう言った後、涼介さんは自分自身の言葉に戸惑うように溜息を吐いた。
「こんな些細な事にまで……嫉妬するのか。僕は」
苦笑しながら、カウンターキッチンへと歩いていく。
涼介さんは自分に呆れている様子だったけれど、私はそんな風に思われている事が嬉しくて胸がずっとドキドキしていた。