雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜

「僕は今、かかりつけの飼い主さんからの救急対応には時間外でも応えているよね」
「はい」
「結婚するからには、その働き方を見直そうと思うんだ。時間外の対応を、辞めるつもりでいるよ」
「でも……」

 それは今まで通してきた涼介さんのポリシーに反する事だ。
 自分を頼ってくれた飼い主様の気持ちに応えて、動物達を助けたい。その為に、どうしても自分の院を持ちたかったと言っていた。

「私の為にそんな」
「違う」

 私の言葉を遮るように、涼介さんが言葉を続ける。

「これは僕の為だよ。結婚して何かあった時に、ちゃんと君を支える事が出来る自分でありたいんだ。例えば僕らが子供を授かった時、君の体は二人分の命を抱えて大変になる。生まれてからは尚更だ。いくら心で君を大切だと思っていても、側にいれなきゃ何も出来ない。だから僕は、自分の為に働き方を見直そうと決めたんだ」

 夜間や緊急対応をしている動物病院をピックアップして、そのリストを飼い主さん達に配ったり、院内に貼り出したり、少しずつ飼い主さん達への周知を始めたと涼介さんは言う。

 私は彼が、音岐動物病院を開院する為にどれだけ熱意を注いだのかを知っている。彼の部屋で、お互いの今まで歩んできた時間の話をしたからだ。

 涼介さんが、真っ直ぐに私を見つめる。

「君と一緒に、君の一番そばで、僕はこれからの人生を歩んでいく」

 これが、涼介さんの約束なんだ。


 ーー僕らの人生について、約束したい事がある。


 初めに言った涼介さんの言葉が今、強く胸に響いた。


「私も、涼介さんと一緒に、あなたの一番そばで、これからの人生を歩んでいきます」


 心からの笑顔で、涼介さんを見つめる。

 私はこの日。大好きな彼に、プロポーズと大切な約束の言葉をもらったのだった。

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