雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
でも、あの子猫を助けられたから良かった。
私はコートを脱ぎ、泥が周りにつかないよう内側に畳んでからソファーの端に置いた。その隣に腰を下ろし、紅茶へと手を伸ばす。
一緒に出してもらったハート型のチョコレートを摘んで口の中に入れた瞬間、また扉をノックする音が響いて、私は焦ってカップを戻し姿勢を正した。
けれど、まだ口の中に入れたばかりのチョコが入っている。
「お待たせして申し訳ありません。お陰様で子猫に異常はなく、今は元気にご飯をモグモグしています」
音岐さんがそう説明しながら、前のソファーに腰を下ろした。
私は手で口元を隠してなんとかチョコを食べ切ってから、「元気で、よかったです」と言葉を返す。
「あなたも、もぐもぐタイムでしたね」
「すみません……! 口に入れたばかりで」
「僕の入ってくるタイミングが悪かったですね」
そう言いながらも、音岐さんは「ふふっ」と声を漏らし笑っている。
私は羞恥で一気に頬が熱くなるのを感じた。きっと頬だけじゃなく、耳まで真っ赤になっているに違いない。
音岐さんは濡れた為か、羽織っていた白衣を脱ぎ今は白衣の下に着ていた上下紺色で半袖の医療ウェアになっている。
白衣姿の時の印象に比べて、半袖になった袖口からは、想像よりずっと逞しい腕が見えていた。
その手がこちらへ伸ばされたかと思うと……。指先が、不意に私の額に触れたのだ。