雨、時々、恋と猫 〜無自覚なイケメン獣医さんに愛されています〜
「本当にお礼なんて……。どちらかと言えば、私がティアラちゃんに救われた方なので」
「あなたがティアラに?」
美沙から聞かされた言葉に、やり切れない思いでいっぱいだった。
酷い扱いを受ける自分は、何一つ価値の無い人間なのではないかと思えて辛かった気持ちが、小さなティアラちゃんを助ける事で、少しだけ自分の存在意義が認められたような気がしたのだ。
「色々あって、どん底だったんですけど……」
上手に笑えているつもりでいたのに、そこまで話した時、自分の瞳がまたじわじわと水の幕で覆われていくのを感じて私はハッとした。
どうしよう。
そう思った時にはもう、涙があふれて頬をつたい落ちていく。
「あの……私。突然、ごめんなさい」
私は急いで頬を拭う。
初対面の相手が目の前で泣き出したりしたら、ひどく困惑させてしまうに決まっている。
「すみません。そろそろ……失礼しますね」
コートと鞄を掴んで立ち上がり、一礼してから小走りで応接室のドアノブに手を掛けた。
その瞬間、私よりずっと大きな手が、包み込むようにドアノブを握る私の手の動きを制する。
「そんな顔をさせたまま、君を帰せない」