社長が私を好き過ぎる
「彼女を採用したいと言ったらどう思う?」

「いやー‥‥さすがに彼女は使えないと思うよ?採用してもついてこれなくてすぐ辞めちゃうんじゃない?」

「‥‥そうだな。じゃあ、彼女は他で内定が出ると思うか?」

「うーん‥‥どうだろう?少なくともシステム会社では厳しいんじゃないかな?他はどうかわからないけど、エントリーシートを見る限り目を引くものはなさそうだし、せっかくいい大学なのにこの書き方だと私はスポーツ推薦です!って言ってるようなもんだからなー」

 優秀な学生なら既に内定が出ているこの時期に、こんなできたての小さい会社に応募してきているのだ。きっと彼女は就活がうまくいかずに苦労してるのだろう。

「俺がエムズホールディングスを辞めて起業したのは、彼女がきっかけだったんだ‥‥」

「え?どういうこと?」

 俺は西谷にあの当時のことを話した。家のことや前の会社のことはあまり積極的に話したことがなかったから、西谷が考えていたよりは重い内容だったのかもしれない。深刻な顔をして最後まで黙って聞いていた。

 俺の話が終わると、西谷がスマホで何やら検索し始めた。

『ああ!転倒です!トップを走っていた青学の大和が転倒しました!』

 それはあの時の動画だった。スマホの中の彼女はたすきを繋げるために歯を食い縛って必死に前に進もうとしていた。言葉ではうまく表現できないが、あの時の感情が俺の心に甦る。

 動画は彼女がたすきを繋ぎ担架で運ばれていくところで終わった。

「レガルシーって‥‥」

「ああ‥‥」

「わかった。大和朱莉ちゃん、採用しよう」

「え?」

「だって彼女は真島の恩人なんだろ?彼女がいたからこの会社がある。それなら俺にとっても恩人ってことじゃんか。彼女は名誉社員枠で採用決定だ」

「でも‥‥大丈夫なのか?」

「根性だけはありそうだし意外と平気かもよ?使えるようになるかは彼女次第だけど、そこは俺がうまいこと調整しながら育ててみるよ」

 その後西谷が選んだ学生を面接することになり、俺ははじめて彼女と対面した。

 彼女は想像よりもずっと小柄で、あの時痛みに耐えて歪んでいた顔は実は意外とかわいらしく、あまりにも普通の女の子だった。朗らかに笑うその様子は俺の知ってる彼女とはかけ離れていて、同一人物とはとても思えない。

「体力には自信があります。メンタルもかなり強めです」

 うん。この業界、それは大事だな。だが自己アピールがそれだけなのはどうだろうか。さすがの西谷も笑顔が凍りついている。本当に大丈夫なんだよな?先行きが不安だ。
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