社長が私を好き過ぎる

魔王の愛の鞭

 元々西谷が採用する予定だった鈴木という奴は、生意気そうではあるが確かに即戦力として使えるレベルの持ち主だった。鈴木の他にもそれなりに能力の高い学生2人の採用を決める。

 男ばかりの職場では大和がつらいだろうからと、応募してきた中で一番スキルの高かった女子学生を一緒に採用した。ところがその女子学生は早々に出社してこなくなり、そのまま退職してしまった。

「え?なんで?俺のせい?あの子に渡した設計書、本当に基礎の基礎だよ?現に朱莉ちゃんはできたし、あの子にできないわけないよね?」

「いや、大和ができた判定は微妙じゃないか?ミスの連発で最終的にお前半ギレだったし、締め切りも間に合わなくて彼女土曜に出社してただろ?」

「うう‥‥わかった。もっともっと緩く、だな?大丈夫、これからは気をつける」

 俺達の心配をよそに、大和は音を上げることもなく淡々と仕事に取り組んでいた。元々のスキルが高かった他の新人に比べてできることは少ないが、それでも着実に成長していく。

 魔王と恐れられている俺は大和との接触を控えていた。せめて職場の居心地を良くしてやりたくて、休憩所にパンやお菓子を置いたりシャワールームのアメニティをいいものに変える。気分はすっかり『小人の靴屋』だった。

 しばらくすると、同期という気安さがあるのか新人達と楽しげに話す大和がやたらと目につくようになった。別に仕事をさぼってるわけではない。故に注意することもできず、俺は悶々とした。

「だいぶ仕事に慣れたみたいだな?君達はかなり優秀そうだから今のレベルじゃ少し物足りないだろ?」

 これは決して注意ではない。社長として新人を労い、激励する‥‥いわば愛の鞭だ。彼らが大和と話してるのを見かける度に俺が愛の鞭をふるい続けた結果、半年もしない内に新人の2人が辞めてしまった。

 さすがにまずいな‥‥と感じながら、どうしても新人達への干渉をやめられなかったのだ。西谷の刺すような視線が痛い。

 残った鈴木は相当変わった奴で、他者への関心が極端に薄そうだったから完全に油断していた。いつの間に仲良くなったのか、大和とのあの距離感はあり得ない。

 挙げ句の果てに俺が大和を特別扱いしていることに気づかれて‥‥多分俺は動揺していたのだろう。突然乱入してきた西谷と言い合いになって、全社員の前でとんでもないことを暴露されるという信じられない事態に見舞われてしまったのだった。
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