社長が私を好き過ぎる

魔王、振られる

「それで?朱莉ちゃんは理由を聞いてどう思った?真島の今後の対応を考えなくちゃいけないし、会社のためにも正直な感想を言ってもらえると助かるんだけど」

 そうだった。私はこの件に関して感想を求められているんだった。

「あー‥‥社長が私のことを好き過ぎて、私が社内で誰かと仲良くする度に嫉妬して嫌がらせをするから、社員がどんどん辞めていく‥‥って話ですよね?」

「うん。まんま、その通りだね」

 抵抗するのを諦めたらしい社長は、西谷さんのその返答に、頭を抱えてうずくまってしまった。耳が赤くなっている。嘘でしょ‥‥?

「社長が私を好きっていうのがまず信じられないんですけど‥‥それはともかく、それって誰とも話すなってことですよね?無理じゃないですか?」

「うーん‥‥もしくは朱莉ちゃんの一番仲良くする相手が真島なら嫉妬しないで済むのかも?」

「いやいやいや、それも無理ですって。だって社長ですよ?10歳も年上ですよ?」

「俺だって副社長で10歳年上だけど、わりと普通に会話してるよね?」

「いや、だって‥‥社長は‥‥ちょっと怖いっていうか‥‥あの‥‥いい意味で?畏怖‥‥みたいな?」

 我ながら必死過ぎた。顔を上げた社長はいつもの無表情に戻っていたけど、もしかしたら傷つけてしまったのかもしれない。罪悪感で胸がチクリとする。

「大和は今のままでいい。俺に遠慮して誰とも話さないとか、そんなの無理だって俺もわかってる。俺がわきまえればいいだけの話だろ?」

「真島はそれで本当にいいんだな?」

「ああ。俺だって10歳も年下の大和とどうこうなろうなんて思ってなかったんだ。好きっていっても親や兄弟のそれだよ。お前が変に騒ぐからこんな大事になっただけだ。大和、わずらわせてすまなかったな」

 社長はそう言って頭を下げると、仕事があるからと応接室を出ていった。

「真島はああ言ってたけど多分あいつにとって朱莉ちゃんは特別だよ。朱莉ちゃんのこと、凄く大切に思ってる。でも、10歳も年の離れたおじさんに執着されたら気持ち悪いよな。俺が事前にあいつの暴走を止めてたらこんなことにはならなかったのに‥‥本当にごめん」

「いえ‥‥私の方こそ、なんかすみません」

「朱莉ちゃんが謝ることなんて何もないよ?」

「いや、無理とか怖いとか‥‥言い過ぎでした」

「正直にってお願いしたのは俺だから。でも本当、前にも言ったけど真島は見かけ程怖くないんだけどなー」

 確かにその日のやり取りで社長はそこまで怖い人ではないかもしれないと感じていた。けれど、その後社長と関わる機会はほぼなくなってしまい、まるでその日のことはなかったみたいに時間が経過していった。
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