社長が私を好き過ぎる
「くそっ!」

 男が悪態をついた。と思ったら、こっちに向かって走ってきた!?

「いやーーー!」

 慌てて男に背を向け逃げ出した。だが、数歩進んだところで右足に激痛が走り、呆気なく追いつかれてしまう。リュックを掴まれ、なぎ倒された。やばい。絶体絶命だ。

「た、助けてーー!」

「うっせぇ女だなっ!」

 やだ!殴られる!咄嗟に目を瞑って顔を腕でガードする。

 ドンッ!!!ドサッ!!!

 ‥‥‥‥ん?恐る恐る目を開けると、すぐそばで男2人が揉み合っていた。

「大和!警察!警察に電話!」

「け‥‥警察」

 肩紐がちぎれ少し離れた場所に飛ばされていたリュックからスマホを取り出し、急いで110番通報をする。手が尋常じゃない程震えていた。

『はい、こちら110番、警察です。事件ですか?事故ですか?』

「じ、事件です!女性が!襲われて!あの‥‥」

 警察の人はパニックでまともに説明ができない私を落ち着かせ、丁寧に誘導し、必要な情報を引き出してくれた。しばらくすると、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。そこでようやく自分が助かったのだと実感した。

 そうだ、誰かが私を助けてくれたんだった。

 慌てて振り返ると、2人はまだ揉み合っていた。女性を襲った方の男が押さえ込まれてはいるものの、抵抗を続けているらしい。

「だ‥‥大丈夫ですか!?」

 加勢したい気持ちはあるが、体がいうことをきかない。声をかけるのが精一杯だった。

「ああ、こっちは大丈夫だ。大和は?怪我してるのか?」

 え?なんで私の名前‥‥薄暗い外灯では顔の判別がつかないその人の声に、聞き覚えがあることに気づいた。

「社長‥‥?」

 パトカーが到着し、社長に代わって警察官が男の身柄を確保した。腰が抜けてるのか立ち上がる気力のない私に、社長がかけ寄ってくる。

「大和!大丈夫か?」

「あ‥‥あの女の人は?」

 公園内に目を向けると、女性が警察官に手を借りて立ち上がろうとしていた。どうやら彼女も無事だったらしい。良かった。

 私も立ち上がろうと体を動かす。

「痛っ!」

 さっき逃げようとした時に痛めた右足のことをすっかり忘れていた。

「どうした!?怪我をしたのか!?」

「いや、以前怪我した右足をまた痛めちゃったみたいです」

 右足をかばいつつ立ち上がろうとしたら、社長に止められた。

「無理するな」

 そういって屈んだ社長は私の背中と膝裏に腕を差し入れ、そのまま軽々と私を持ち上げた。

 こ‥‥これは‥‥世の女性が憧れて止まないという噂の‥‥お姫様抱っこーーー!?
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