社長が私を好き過ぎる

社長の様子がおかしい

 足の怪我はしばらく安静にしていれば大丈夫とのことで、検査の結果他に異常もなく、帰宅が許可された。

「西谷が車で迎えに来てくれるそうだ」

 お姫様抱っこ以降、社長の過保護は加速の一途をたどり、さっきから至れり尽くせり状態が続いていた。

「その足じゃ通勤も厳しいだろう。通勤中の怪我だし労災になるはずだ。足がちゃんと治るまで休んだ方がいい。だがひとり暮らしだと通院や買い物も大変だな‥‥」

「あ‥‥あの?社長?そのくらいどうにかしますし、大丈夫ですよ?」

「何を言ってるんだ!その足であのアパートの階段を上り下りするなんて危ないだろ!?また何かあったらどうするんだ!」

 社長の勢いに気圧される。た‥‥確かに大変だとは思うけど、しょうがなくないか?

「あとほんの少しでも俺が大和を見つけるのが遅かったら、もっと酷い目に遭っていたかもしれない‥‥間に合って本当に良かった」

 社長の瞳が不安に怯え揺れている。こんなに近くで社長と顔を合わせたことがなかったから今まで気づけなかった。社長は表情があまり動かない代わりに、感情が目に強く出るのかもしれない。

 社長がそっと私の腕に触れた。

「それでも、大和に怖い思いをさせた上にこんな怪我まで‥‥助けが遅くなって申し訳ない」

 社長が謝ることなんて本当はひとつもないはずだ。でもあまりに真剣な様子に否定の言葉を挟むこともできなくて、困惑してしまう。

「これ以上大和に何かあったら俺が耐えられない‥‥」

 そう言って一歩も譲ろうとしない社長を、西谷さんでも止めることはできなかった。自宅に帰りたがる私の意見は完全にスルーされ、私に与えられた選択肢は2つ。

 社長のご実家で社長のご家族と寝食を共にしながらの療養か、社長が住むマンションを間借りしてヘルパーさんに頼った生活をするかだ。

 どっちも嫌過ぎるのだが?西谷さんに助けを求めて視線を送るも、諦観の笑みを返されてしまう。

 社長は私が目の届くところにいないとどうしても安心できないらしい。納得はできないが、社長が助けてくれなかったら大変なことになっていたのも事実だ。しょうがない、ここは恩人のいうことに従おう。

 この2択なら、ほとんど家主が戻ってこなそうなマンションの方が気をつかわなくて良さそう‥‥な気がしなくもなくもない。

 アパートに荷物を取りに寄った際、階段をお姫様抱っこで運ばれて羞恥に震える私に、西谷さんが慰めの言葉をかけてくれた。

「朱莉ちゃんが危ない目に遭って一時的に気が立ってるんだろ。少し時間が経てばあいつも落ち着くと思うから」

 足が治るまで2~3週間だろうか。いや、それなりに歩けるようになれば平気だろう。だとすれば1~2週間の辛抱だ。
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