社長が私を好き過ぎる

社長との生活

 マンションに到着したのは早朝。すぐに部屋を用意するからとりあえず社長のベッドで休むようにと言われ、私に拒否権はなかった。抵抗しても無駄だと悟った私は、素直にいうことを聞く。

 ヘルパーさんが来るまで入浴は禁止されたため汗を流すこともできず、汚れた服だけ替えてベッドに潜り込んだ。

 社長のベッドは何故か知ってる匂いがする気がして、なんか落ち着く。疲れてた私はあっという間に意識を失った。

 目が覚めると既に日が高くなっていた。喉が渇いたしトイレにも行きたい。今日は平日だし社長は出社してるだろうから、勝手に色々使わせてもらってもいいだろうか‥‥そんなことを考えながら体を起こす。

「イタタタタ‥‥」

 右足はもちろん、投げ飛ばされたことで体のアチコチが痛んでいた。しばらくは起き上がる度に体が痛みそうで少し憂鬱になる。

「大和?大丈夫か?」

 部屋の外から社長が声をかけてきた‥‥え?なんで?会社は?

 松葉杖を使って立ち上がり、移動してドアを開けると、社長が目の前に立っていた。

「社長‥‥おはようございます」

「起き上がって平気なのか?体が痛むんだろ?欲しいものがあったら言ってくれれば用意するから、無理はするなよ?」

「本当に大丈夫です。ただ、あの、ちょっとお手洗いをお借りしたいんですが‥‥」

「え!?あ‥‥そうか‥‥すまん」

 真顔ながらも照れた様子が伺える。その反応はこっちが恥ずかしいから止めて欲しい。用を済ませてリビングに戻ると、ダイニングテーブルに食事の用意がされていた。

「目が覚めた時に食べられそうなら何か口に入れた方がいいと思って用意しておいたんだ。体が辛いならベッドに運ぶが‥‥」

「大丈夫です。ここでいただきます」

「午後からヘルパーが来るし、夕方にはベッドも搬入される予定になってるから」

「あの‥‥社長‥‥今日お仕事は?」

「今日は西谷に任せてあるから大丈夫だ。家でできる仕事も多いし、何も問題ない」

 そうか‥‥さすがに他人の私をひとりで家に置いておくわけにはいかないのだろう。

「色々ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。何から何までしていただいて、ありがとうございます」

「俺がしたくてしてることだから大和は何も気にすることはない。早く元気になってくれればそれでいい。食事が済んだら薬を飲んでまた横になっていろ」

「はい。ありがとうございます」

 再びベッドに戻った私は食後に飲んだ鎮痛剤のせいでまたすぐに眠ってしまったらしい。

 昨夜から異常事態が続いている。今の状態が普通じゃないことは理解しているのに、頭の中がぐちゃぐちゃで上手く整理できないのだ。私の思考力は社長と眠魔に完全に奪われていた。
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