社長が私を好き過ぎる

ほぼストーカー

 俺にとって特別な存在だった大和が想像より遥かに小柄でかわいらしいとわかった時、俺の中で彼女は『守るべき存在』へと変化した。10歳という年齢差もあって、俺はその変化を自然と受け入れた。

 その『庇護欲』が『独占欲』へと形を変えるのにそう時間はかからなかったと思う。だが俺はそれをどうしても認められずに見て見ぬ振りを続け、それは最悪な形で露呈してしまった。

 大和が俺を拒絶するのは当然のことだろう。俺は大和より10歳も年上で周りから『魔王』と呼ばれ恐れられているのだ。

 拒絶されるのがわかりきっていたから俺は大和への想いを必死で隠していたのだと、改めて気づかされた。

 いい年して俺は何をやっているんだ?このまま俺が馬鹿を続ければ、大和が会社に居づらくなってしまう‥‥

 それだけは回避したい。

 この期に及んで大和をそばに置いておきたいと考える浅ましい自分を、俺はまた見て見ぬ振りでやり過ごす。

 大和が気軽に話せる女性社員がいた方がいいと考え、事務スタッフを数人雇った。おかげで時間に余裕ができたので、社外での仕事を増やすことにした。

 他の奴らと親しげに話す大和を目にしなければ、俺が嫉妬に狂うこともなくなる。

 オープンな環境作りに最適だからとわざわざ取り入れたガラス張りのパーテーションは、あれ以降常時不透明なままにしているが、社内にいるとどうしても大和のことが気になってしまうのだからしょうがない。

 元々それ程なかった俺と大和の接点は、これでほぼなくなってしまった。

 大和が不都合なく仕事に取り組めているのならそれでいい。プログラマーとして順調に成長している彼女をそばで見守れるだけで満足だ。

 ‥‥そう思っていたのに、俺の中の歯車が大きく狂ってしまった。

 入社してすぐの頃、大和が『シャワールームを使えるなら走って通勤したい』と申し出てきた。彼女らしいその申し出に深く考えることなく許可を出したが、すぐに後悔した。

 仕事が終わらず帰宅が遅くなった日も、彼女が走って帰宅していることに気づいたのだ。一応注意は促したものの、大丈夫だと軽く流されてしまう。今更通勤方法を変えろとも言いづらくて、悩みに悩んだ俺は‥‥時間が許す限り帰宅する彼女を後ろから走って追いかけることにした。

 といっても相手は陸上選手。追いかけるのはそう簡単ではない。はじめの頃は途中で見失ってしまうのが常だった。空いた時間にトレーニングすることで彼女についていけるようになっても、仕事の都合で走れない日も多い。彼女に何かあったらと思うと気が気じゃなかった。

 そしてあの日、俺がずっと恐れていたことが現実に起こってしまったのだ。
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