心を切りとるは身を知る雨
第一話 七下の雨
『僕はあなたを傷つけた。あなたの作品を側に置けば、この罪から少しだけでも逃れられるような気がしていたけれど、注文した作品はキャンセルさせてほしい。あなたの作品はあなたの代わりにはならないから』
八坂未央は久しぶりに、別れた婚約者から届いたキャンセルメールを開いていた。
何気ない日常の中で、時折、彼を思い出す。彼はどんな気持ちでこのメールを送ってきたのだろう。罪悪感と向き合うことをやめ、関係回復をあきらめたのだろうか。それとも、やり直したいと思っていただろうか。
そして、当時に思いを巡らすことで、裏切りに傷つけられてもなお、彼への思いが残っているかどうかを、自分もまた、こうして確認しているのかもしれない。
店先に現れた人影に気づいて、未央はパソコンの画面に表示されたメールボックスを閉じた。
カウンターから立ち上がると同時に、引き戸が開いて、見知った青年が店内へ入ってくる。
「井沢さん、こんにちは」
にこやかに声をかけると、井沢朝晴はどういうわけか、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「また来たのかって顔してますね」
「そんなこと」
勘違いだと首を振ってみるものの、迷惑に感じていたのを隠しきれていなかったのだろうとバツの悪い気分になる。
「いいんですよ。無理を承知で何度もうかがってるんですから」
苦笑まじりにそう言うのだから、今日も例の件で来たのだろう。このところ、彼は頻繁に店を訪ねてきている。
八坂未央は久しぶりに、別れた婚約者から届いたキャンセルメールを開いていた。
何気ない日常の中で、時折、彼を思い出す。彼はどんな気持ちでこのメールを送ってきたのだろう。罪悪感と向き合うことをやめ、関係回復をあきらめたのだろうか。それとも、やり直したいと思っていただろうか。
そして、当時に思いを巡らすことで、裏切りに傷つけられてもなお、彼への思いが残っているかどうかを、自分もまた、こうして確認しているのかもしれない。
店先に現れた人影に気づいて、未央はパソコンの画面に表示されたメールボックスを閉じた。
カウンターから立ち上がると同時に、引き戸が開いて、見知った青年が店内へ入ってくる。
「井沢さん、こんにちは」
にこやかに声をかけると、井沢朝晴はどういうわけか、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「また来たのかって顔してますね」
「そんなこと」
勘違いだと首を振ってみるものの、迷惑に感じていたのを隠しきれていなかったのだろうとバツの悪い気分になる。
「いいんですよ。無理を承知で何度もうかがってるんですから」
苦笑まじりにそう言うのだから、今日も例の件で来たのだろう。このところ、彼は頻繁に店を訪ねてきている。
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