心を切りとるは身を知る雨
「これ、清倉ですか? 展望台の近くで、こういう景色が見えますよね」
「ポストカードは作ってきたけど、額装した作品で、清倉とわかるデザインにしたのは初めてかも」
「ですよね。珍しいですね、清倉の風景なんて」

 初めて清倉に来たときの風景を残しておきたいと、引っ越してすぐにデザインしたものだ。なかなか形にならなくて、完成するのに時間がかかってしまった。

「ちょっと気持ちが落ち着いたからかな」

 文彦の話を朝晴に聞いてもらった日から、今ならできるという自信があった。

 婚約者を疑い、醜く汚れてしまった心がたまらなく嫌だった。いつか、純粋な心を取り戻して、優しい気持ちで文彦を弔いたかった。作品が完成できたのは、ようやく、そのときが来たからだと感じている。

「何かあったんですか?」

 下から顔をのぞき込んでくるしぐれの目には、どういうわけか、ますます好奇心が浮かんでいる。

「何かって?」
「お兄ちゃんと、付き合ってます?」
「えっ!」
「よくデートしてるんですよねー?」
「デートじゃなくて、時々、食事してるだけですよ」
「ふたりでですよね? いきなり、夜ご飯いらないって言われるから、隙間時間にデートしてるんだろうなぁって思ってました。お兄ちゃんは絶対、デートのつもりですよ」

 どうやら、夕食の準備に迷惑かけてしまっているらしい。

「ほんとうにデートじゃなくて、お付き合いしてるとかでもないんですよ」
「お兄ちゃんのこと、好きじゃないんですか?」
「えっと……」
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