心を切りとるは身を知る雨
 遠慮なく聞かれると困ってしまう。

「お兄ちゃんは好きだと思うなぁ。最近なんか、雰囲気が変わったから、てっきり付き合い出したんだって思ってました」
「雰囲気が?」

 そうだろうか。全然気づかなかったけれど、毎日一緒に暮らす妹の目には違う朝晴が映ってるのだろうか。

「そうですよ。だから、ちょっと心配」
「心配って、何かあるの?」
「やけに、自信に満ちあふれてる感じなんですよね。東京でイベントコーディネーターやってたときはかなり敏腕で、女の人にもモテモテだったみたい。それで、調子に乗ってるっていうか、そのころよりは全然ですけど、そういう余裕ぶった雰囲気、今は出してますねー」

 やれやれと、あきれるようにしぐれは言う。

 朝晴も、東京にいたころはおしゃれをして、高級なレストランでデートを重ねていたのだろう。仕事帰りに商店街の小さな喫茶店で、素朴な味のするオムライスやハンバーグを食べ、たった数十分過ごすだけのデート……と言っていいのかはわからないが、それとは違う。未央はそんな、彼と過ごすわずかな時間に心地よさを感じていたが、付き合っているという自覚はなかった。

「そんな男ですけど、いいですか?」
「いいかって言われても……」

 期待を込めた目でじっと見つめられると、ますます戸惑ってしまって目をそらしたとき、切り雨の入り口に人影が見えて、未央はほっと息をつくと、引き戸に駆け寄った。
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