心を切りとるは身を知る雨
「ありがとうございます。実はもう、取り掛かっているんですよ。秋が終わる前には完成すると思います」
「いいですね。製作してるところなんか見てみたいです」

 イベントコーディネーターの血が騒いだのか、朝晴はそう言う。

 基本的にアトリエには誰もいれていない。しぐれも気をつかって入ってこないぐらいだ。けれど、朝晴の気さくさに警戒心が解けたのか、自分でもふしぎなほど、すんなりと口を開いていた。

「定休日に予定が合えば、ご案内しましょうか?」

 中学教師の朝晴が、定休日に訪ねてこられるとしたら、次は冬休みだろうか。彼もそう気づいたのだろう。思案げにあごに手を置く。

「夜に訪ねるのは、やはりダメですよね?」
「そうですね……、ダメではないですけれど」

 夕食を何度か一緒に食べているから、その帰りなら大丈夫だろうとは思うけれど。

「それでは、アトリエにご案内できても、製作するところはあまりお見せできないかもしれないです」
「かまいません。何度でも通いますから。まずは、来週末にでも」
「あっ、はい」

 つい、流れに押されてうなずいてしまう。

「では、来週の日曜、夕方にうかがいます」

 イベントコーディネーターとしての彼の敏腕さゆえだろうか、あっさりと決まってしまった。

「そういえば、未央さん。西島誠道(にしじませいどう)氏を知ってますか?」
「西島先生?」

 その名を朝晴の口から聞くとは思わなくて驚く。
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