心を切りとるは身を知る雨
***


「いま、清倉の駅に着いたので、直接うかがいます」

 朝晴から、そう電話がかかってきたのは、切り雨の閉店後、しぐれが帰っていった直後だった。

 どうやら、東京から戻ってきたばかりのところで電話をくれたようだ。今日もまた、西島誠道に会いに行ったのだろうか。やたらと未央の作品づくりに興味を持つのは、展覧会への出品をくどくように誠道から言われているからかもしれない。いや、朝晴のことだから、彼が勝手にやる気になってる可能性もある。

 以前、清倉中学校での夏祭りに参加しないかと誘われたときもそうだったが、朝晴はなかなか粘り強い。いいと言うまで、いつまでも勧誘を続けるだろう。だからきっと、電話口の彼の声が、ちょっとだけ営業マンのようだった。

 店舗とアトリエを仕切るのれんをくぐり、アトリエに灯りをつける。朝晴は作業しているところを見たいと言っていたが、製作中の作品はまだ、デザインを考えている最中だ。彼が見たいのは、切り出している作業だろう。

「たしか、作りかけのものがあったはず」

 未央はひとりごとをつぶやいて、壁際にある収納棚を開く。

 商品にはならないと思って、途中で放置した図案を捨てずにいくつか取ってある。手ごろなデザインはないかと探していると、裏口の方で車のエンジン音がした。
< 107 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop