心を切りとるは身を知る雨
「はい」

 あまりにもまっすぐな目を向けてくるから、未央は恥ずかしくなって目もとに指をあてる。

「……あまり、困らせないでください」
「チャンスがあるときは、期待してもいいっていうことですね」
「そんな勝手な……」

 あきれてしまうが、違うとも言えない。いい雰囲気になったら抱きしめてもいいなんて、それではあまりにも軽薄すぎる。だけど、はっきり言えないのは、優柔不断な自分の方。行動的な朝晴には、もどかしいのではないだろうか。

「はっきり言いたい気持ちもあるんですが、あっさり断られたくもないんですよ。悪あがきです」

 朝晴は照れくさそうに後ろ頭をなでる。

「ごめんなさい。今はまだ、考えられなくて」
「公平さんと結婚するからですか?」

 神妙にする彼の前で、未央は居住まいを正す。

「八坂と財前、両家が納得している話ですから、少し時間をくださいと、公平さんには伝えました」

 公平との結婚は自分の一存で決められないことでもある。受けるにしろ、断るにしろ、両家のプライドを守りながら進めないといけない。

「考える余地があるんですね」
「私は八坂の娘として育ちましたから」
「八坂の娘であることは、未央さんにとって重要なことなんですね?」
「はい、そうです」

 未央がはっきりとうなずくと、朝晴もわかってくれたように、静かにうなずいた。
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