心を切りとるは身を知る雨
 参加申請書にサインする彼女にそう尋ねる。

「昨日、有村さんがいらしたでしょう?」
「有村くんが何か?」
「有村さんとお話していたら、切り絵体験をやってみたくなったんです」

 有村は教師の手をわずらわせることのない平凡な生徒で、未央の心を動かしたと聞けば、少々驚く。

「そう言ってましたね。無料の体験コーナーをやりたいと」
「有村さんが切り絵の飾りを探していたので、いっそのこと、ご自身で作られてみては? と思ったんです」
「へえ、有村くんが切り絵の飾りを。またどうして?」
「お母さまにプレゼントしたいそうです。あ、内緒ですよ、この話。井沢さんは主催者だからお話してるんです」

 人差し指を立てた唇に、年相応の愛らしさを感じて、なぜだかホッとする。

「学生のために決断してくれたんですね。ありがとうございます」

 頭を下げると、未央はいえいえと首を振り、両手のひらを胸の前で合わせる。

「井沢さんにお願いがあるんですけれど」
「何か?」
「有村さんにお祭りに参加するように伝えてくれませんか? 井沢さんにご相談してからと思ったものですから、有村さんにははっきりとまだ伝えられてなくて」
「お安い御用ですよ。イベントの案内は学生たち全員に配布しますから、そのときに声をかけておきますよ」

 そう言うと、未央は安堵したのか、胸に手を当てた。
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