心を切りとるは身を知る雨
第五話 月の雨
「俺のために切り絵を作ってくれませんか?」
すっかり秋めいてきた早朝、出勤前であろうスーツ姿の朝晴が、郵便局の前で偶然出会った未央にそう言った。
朝晴はいつも車通勤のようだ。郵便局の前の道をまっすぐ行った先に、彼が勤務する清倉中学校がある。彼は通りを歩く未央に気づいて、車を停めると話しかけてきたのだ。
「ありがとうございます。ご希望のデザインはおありですか? 時間のあるときに、ご相談させていただきますね」
助手席側の窓から顔をのぞかせて、未央はそう言う。
「未央さんが俺のために作りたいと思うデザインがほしいですね」
どきりとするような言い方をするが、そういった注文の仕方をする客はほかにもいる。未央は戸惑いを見せずに答える。
「考えておきますね」
「できたら、製作現場を見せてもらいたいんですけどね」
朝晴が苦笑いするのは、その約束がまだ果たされていないからだろう。
「デザインの案ができましたら、アトリエにいらしてください」
「いいんですか?」
押しの強い彼がそう尋ねるのは、多少なりとも公平との婚約の話が進む未央を気づかってのことだろう。
「大丈夫ですよ」
未央がそっと微笑んで車から離れると、朝晴はまだ何か話したそうな顔をしたが、「また連絡します」と立ち去った。
車が見えなくなると、未央はハガキを郵便ポストに入れ、来た道を戻った。
すっかり秋めいてきた早朝、出勤前であろうスーツ姿の朝晴が、郵便局の前で偶然出会った未央にそう言った。
朝晴はいつも車通勤のようだ。郵便局の前の道をまっすぐ行った先に、彼が勤務する清倉中学校がある。彼は通りを歩く未央に気づいて、車を停めると話しかけてきたのだ。
「ありがとうございます。ご希望のデザインはおありですか? 時間のあるときに、ご相談させていただきますね」
助手席側の窓から顔をのぞかせて、未央はそう言う。
「未央さんが俺のために作りたいと思うデザインがほしいですね」
どきりとするような言い方をするが、そういった注文の仕方をする客はほかにもいる。未央は戸惑いを見せずに答える。
「考えておきますね」
「できたら、製作現場を見せてもらいたいんですけどね」
朝晴が苦笑いするのは、その約束がまだ果たされていないからだろう。
「デザインの案ができましたら、アトリエにいらしてください」
「いいんですか?」
押しの強い彼がそう尋ねるのは、多少なりとも公平との婚約の話が進む未央を気づかってのことだろう。
「大丈夫ですよ」
未央がそっと微笑んで車から離れると、朝晴はまだ何か話したそうな顔をしたが、「また連絡します」と立ち去った。
車が見えなくなると、未央はハガキを郵便ポストに入れ、来た道を戻った。