心を切りとるは身を知る雨
***


 清倉中学校を訪問するのは初めてのことで、右も左もわからない。折りたたみのテーブルと、いくつもの紙袋をさげる未央に気づいたたこ焼きやのおじさんが、あっちあっちと校舎の南を指さすから、ありがたいことに体育館へは迷わずたどり着けた。

 雑貨屋のおばさんに、おまんじゅう屋のおじさん、アクセサリー屋のおねえさんと、見知った店主たちにあいさつをしながら体育館へ入っていくと、黄色のテープに囲われたブースで朝晴が待っていた。

「八坂さん、こっちこっち」

 そう言いながら、朝晴は駆け寄ってくる。

「今日は浴衣ですか。よくお似合いです」
「ええ、お祭りですから。あっ、大丈夫ですよ」

 テーブルをつかむ彼にそう言うが、紙袋まで持ってくれる。

「荷物はこれだけですか?」
「はい。長机とパイプ椅子は用意してくださると聞いていたので」
「机二つと椅子は四つでよかったですよね。昨日のうちに運んでおいたのでばっちりです」

 本来は前日に下見に行かなければいけなかったのだが、未央は店を開けるわけには行かず、来られなかった。代わりに、朝晴が準備してくれたようだ。

「何から何までありがとうございます」

 早速、ブースに折りたたみテーブルを広げてくれる彼に礼を言う。

「無理に誘ったのは俺ですからね、このぐらいは」
「お忙しいんじゃありませんか? あとはひとりでやれますから」
「準備ができたら行きますよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 親切を断ったところで、行ってくれそうにない。ここはすんなり好意を受け入れた方がいいだろうと判断して、紙袋の中から取り出した切り絵の材料を朝晴に渡す。

 それらを折りたたみテーブルの上に置きながら、切り絵の見本を見つけた彼は「へえ」とつぶやく。

「風鈴ですか」
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