心を切りとるは身を知る雨
「ほかに、花火とひまわりと」
「夏の風物詩ですね」
「生徒さんたちには気に入った図柄をひとつ選んで作ってもらおうと思ってるんです」

 インテリアスタンドを長机に乗せ、切り絵の風鈴を飾りつける。花火とひまわりは額に入れて立てて置く。

「子どもたちでも簡単に作れそうなデザインになってますね。八坂さんがデザインを?」
「どんなデザインがいいかなぁって悩んで、出来上がったのは昨日なんです」
「そんなに真剣に悩んでくれたんですね。子どもたち、知ったら喜ぶだろうな。やっぱり八坂さんをお誘いしてよかったですよ」
「来年もやられるなら、もっとはやく準備しますね」
「来年も出てくれますか。楽しみだな。おや、そのイヤリングも切り絵ですか?」

 朝晴は何かとめざとい。浴衣もさらりと褒めてくれたし、観察力の高い人なのだろう。

「こういうの好きな子もいるでしょう? 少しでも楽しんでもらえたらと思って」

 花柄のイヤリングに指で触れると、彼はそっと目を細める。あまり彼のことはよく知らないが、時々、ハッとするほど艶めいた表情を見せる。まるで、意図的に魅力を引き出すかのような笑顔には、教師という職業には似つかわしくない何かを感じる。

「井沢さんはずっと教師をされてるの?」

 彼の振る舞いには教師らしくないものがある。別の職業の経験があるのではないか。以前から感じていた違和感の正体を見つけるように尋ねる。

「教師になったのは、三年前なんですよ」

 やっぱり。思ったより、最近の話で驚く。
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