心を切りとるは身を知る雨
「それまでは何をされてたの?」
「東京でイベントコーディネーターをしてました。清倉に越してきてから、昔とった杵柄で教員になったんですよ」
「そうだったんですか。それで、お祭りの主催も。慣れておいでなんですね」
「好きなんですよ、何かをアドバイスするのって」
「先生向きでもあるんですね。清倉を選んだのは、暮らしやすいいい場所だから?」
「祖母の家があるんですよ。小さなころは家族でよく泊まりに来たものです。今は妹と祖母の三人で暮らしてます」

 未央も東京での生活から離れたくて清倉へやってきた。彼にも何か事情があって、ここへ来たのかもしれない。興味本位で尋ねてしまったが、何も隠す様子なく笑顔で話してくれる彼にはホッとする。

「妹さんがいらっしゃるんですね」
「しぐれっていいます」
「雨の時雨(しぐれ)ですか?」
「名前はひらがなですけどね、雨つながりで、切り雨さんとはご縁がありそうだなって前から思ってました」

 そんなふうに親しみを感じてくれていたなんて全然知らなかった。

「ぜひ、お会いしてみたいです。しぐれさんによろしくお伝えください」
「ありがとう。しぐれも喜びますよ。あんまり、同世代の友人がここにはいないから」

 ほんの少しまぶたを伏せた朝晴だったが、ハッとしたように体育館の入り口の方へ視線を向ける。腕章をつけた青年が朝晴の名を呼びながら、こちらへ向かって手招きしている。

「どうぞ、行ってください」
「困ったことがあったら、本部に連絡ください。またあとで、様子見にきますから」

 彼は早口でそう言うと、軽やかな足取りで駆けていった。
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