心を切りとるは身を知る雨
「清涼感があっていいですね」
「いいかな?」
「とっても。窓際に飾ると、光を透過して優しい雰囲気になると思いますよ」

 窓辺で揺れる風鈴を想像したのだろうか、有村くんは満足そうに笑む。思慮深くて真面目な子なのだろう。

「カッターで手を切らないように注意してくださいね」

 行儀良くパイプ椅子に座って準備を待つ有村くんに、型紙と鉛筆、デザインナイフを渡す。

「鉛筆で下書きしないで作る方法もあるんですけど、今日は初めてなので、ガイドラインを引いて作りましょう」

 色画用紙の上に、鈴の型紙を乗せてあげる。

「まずは型紙に合わせて、鈴と短冊両方の下書きをしてくださいね」
「下書きしたら、カッターで切り抜くだけ?」
「そうですよ。難しくないですし、ゆっくりでいいですよ」
「井沢先生がいると緊張するな」

 有村くんはちらりと朝晴を見やり、深呼吸すると鉛筆を手に取る。

「有村くんは工作得意だろう」
「そういう話じゃないから。あっ、線が曲がっちゃった。先生は黙っててって」

 手もとをのぞき込む朝晴とじゃれ合うような有村くんがかわいらしくて笑ってしまう。

「生徒さんに慕われてるんですね」
「だといいですけどね」

 朝晴が苦笑いすると、下書きをしながら有村くんが言う。

「みんな言ってるよ。井沢先生は先生らしくないから面白いって」
「それって、好かれてる?」

 くすくす笑う朝晴は、やっぱり誰が見ても先生らしくないのだろう。けれど、生き生きと話す有村くんを見ていると、そういうところが生徒の本来の姿を引き出す力にもなっているのかもしれないと思う。

「先生らしくないは褒め言葉」
「それじゃあ、ありがたく受け取っておこう」

 有村くんは無言でうなずいて、慎重に線を引いていく。熱心に取り組む姿を、朝晴も無言で見守る。
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