心を切りとるは身を知る雨
 線を引き終わると、下書きに沿って、カッターで切り抜いていく。いつも使ってるカッターよりやりやすいと、有村くんは感動しながら、丁寧に丁寧に刃を滑らせていく。

 こんなにも真剣に取り組んでもらえると、体験コーナーを企画した甲斐もある。これを機に、切り絵を好きな子が増えたらいいなんて欲深なことまでは考えていなかったけれど、楽しんでくれているようでホッとする。

「できたっ」

 鈴の形の中に描いた、円を組み合わせた簡単な幾何学模様が綺麗に切り取られている。

「すごく上手」
「自分でもそう思う」

 自信に満ちた表情で、有村くんは胸を張る。

「あとは糸をつけたら出来上がりです」
「やってみる」

 細い糸をもどかしそうに小さな穴へ通し、鈴と短冊をつなぎ合わせる。

「これで完成?」
「はい。好きなところへ飾ってくださいね」

 有村くんは腕を高くあげる。風鈴がくるくると涼しげに回る。熱心に眺める彼を、朝晴も興味津々に見つめる。

「いいのができたな、有村くん」
「こんなに本格的とは思わなかった」
「わかるよ。難しいデザインじゃないのに、すごくおしゃれだよなぁ」

 有村くんも同意するようにうなずいて、椅子からするりと降りる。

「先生行くよ。切り雨さん、ありがとう。友だちが待ってるから」
「お祭り、楽しんでくださいね」

 走り出す有村くんに手を振って見送ると、朝晴が言う。

「生徒たち、迷惑かけてませんか?」
「いいえ、全然。いい子たちばかりで」
「ですよね。正直言うと昔はね、子どもなんて生意気なだけだと思ってたんですよ。当然、家族に憧れなんてありませんでね。仕事だけ頑張って稼いでいれば幸せだと思ってました」

 何を思ったのか、朝晴は唐突にそう言う。
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